SECIモデルは日本発祥の世界基準のナレッジマネジメント理論です。
企業内におけるノウハウが、どのように形成され個人のスキルとして落とし込まれるか?個人のスキルがどのように組織全体にノウハウとして形成されるか?を1つの経営理論として形づけたのがSECIモデルです。
本ページでは、SECIモデルの内容とその具体例・実践例について整理していきたいと思います。
SECIモデルは、某情報系試験で出題されることもある重要知識です。実際の業務でも行かせる部分が多いノウハウが詰まっているため、是非最後までご覧ください。
SECIモデルとは?(セキモデルとは?)
SECIモデルは、一言で言えば「組織における知識の共有」の流れを整理した理論です。
冒頭でSECIモデルは日本発祥であることを述べました。高度経済成長を遂げた日本の成功要因はどこにあったのか?
その答えの1つが、ナレッジマネジメントです。そして、このナレッジマネジメントの実践を体系化し理論化したのがSECIモデルです。
SECIモデルでは、「組織における知識の共有」を4つのステップに分解し説明した理論です。
知識(社内のノウハウ)がどのように、会社のノウハウとして定着するか?いわゆる職人技はどのように世代を超えて受け継がれてきたのか?
知識の共有は「S:共同化」「E:表出化」「C:連結化」「I:内面化」の4段階で行われると提唱したのです。

共同化 / Socialization

第1のステップは「共同化(Socialization)」です。共同化(Socialization)とは、経験の共有のことです。
どのような職場においても、組織で集約された知識だけでは業務は成り立ちません。必ず、個々人が持つ暗黙的な知識、すなわち経験を基に業務を遂行していると説明します。
「暗黙的」というのは言葉で説明できない(されていない)知識ということです。
仮に、システム開発の現場をイメージしてみましょう。
システム開発では、決まった成果物(設計書・プログラムなど)があり、決まったルールに基づいて業務が遂行されます。この時、決まった成果物やルールを暗黙知に対して「形式知」と呼びます。
形式知は、言語化可能であり組織全体への共有・浸透が可能な知識です。これまでのシステム開発の歴史で蓄積された形式知です。
では、決まった成果物、決まったルールさえあればシステム開発はできるか?というと答えはNOです。実際にシステム開発を行ったことがある人なら分かるかもしれませんが、システムに関する知識やプログラミングのコツ・ツボなどが必要になります。
システムユーザからの要望の吸い上げ方や、チームのマネジメント方法など、組織全体では共有されない個々人の職人技(暗黙知)に頼ったうえでシステムが完成していくのです。
共同化(Socialization)では、この暗黙知(経験)を共有します。先輩と一緒にプログラミングをする、上司とともにシステムユーザの要望を吸い上げる―。
暗黙知を共有する。すなわち、経験の共有こそが共同化(Socialization)なのです。
表出化(Externalization)

経験された共有は、言葉での共有に変わります。
それが第2のステップ「表出化(Externalization)」です。
先輩と共有したプログラミングの経験を、チームのWikiや作業日報で全体へ共有する―。システムユーザの要望の吸い上げ方のコツを、ノウハウとして全体へ周知する―。
自分と先輩・自分と上司、二人だけの暗黙知であった知識が、初めて言語化され、組織全体のノウハウとなります。
これが、第2のステップ「表出化(Externalization)」です。
SECIモデルを意識しない組織の限界はここにあります。すなわち、知識の共有で終わってしまうのです。その先がありません。
どういうことか?SECIモデルの次のステップ「連結化(Combination)」を考えてみましょう。
連結化(Combination)

チームのWikiや作業日報を見た組織内の他のメンバーは、自分が持っている知識と組み合わせることができます。
プログラミング方法は、何通りもあります。したがって、「こっちのほうが良いよ!」「こうしたほうが効率が良い!」などというように、知識がブラッシュアップされていきます。
これが第3のステップ「連結化(Combination)」です。
連結化(Combination)は、ただの「形式知」から「洗練された形式知」へ進化させるステップです。企業風土によって、この第3の連結化のレベルに差異が出てきます。
人から教えてもらう文化があるか、人に教える文化があるか。知識を全員で共有するような仕組みを整えているか。
この第3のステップが軽視されている日本企業は実に多いと感じます。
内面化(Internalization)

連結化によって、「洗練された形式知」を再度個々人の「暗黙知」にするのが第4のステップ「内面化(Internalization)」です。
分かりやす言葉で言えば、理解したことを「できる」ようにするステップと言えます。
プログラミングのコツを頭で理解したうえで、自分のスキルとするのです。
ここにきて、SECIモデルが完結します。
今度は、自分が先輩になり暗黙知を共有していく新たなSECIモデルが開始となります。
高度経済成長を遂げた日本では、SECIモデルが綺麗に定着していたと本理論の提唱者は考えています。職人技が世代を超えて受け継がれたのは、知識の共有に鍵があったという結論なのです。
補足:暗黙知と形式知を分かりやすく
暗黙知と形式知について補足します。
本ページでは、暗黙知を「言葉にできない(されていない)知識である」と解説しました。こう解説すると「暗黙知は曖昧な知識である。形式知の方が優れている。」と認識する人がいますが、誤りです。
結論、暗黙知の方が優れていると言えます。頭で考えなくても、体に染みついているため、応用性も即応性も高いのが暗黙知です。
形式知は、それを知ればだれでもできる知識です。タイピング一つをとっても、ホームポジションという形式知を知っていれば、ホームポジションをとることはできるでしょう。しかし、ホームポジションを実践するには訓練の中で得たコツやツボといった暗黙知が重要な役割を果たすことは間違いありません。
暗黙知こそが、自分自身のスキル・能力といった部分であり、その暗黙知を以下に増やすか?というのが、他の人との差別化につながるのです。
AIは暗黙知を持ちません。全て形式知です。人間だけが暗黙知を有します。AIが持つ形式知は全て人間が持っていた以前の暗黙知である、とすればAIの限界もここにあるのではないかと思います。