DNS(Domain Name System)は、インターネット上で情報が正確に伝達されるための基盤を形成しています。このシステムの核となるのが「DNSレコード」です。
DNSは、Webサイトやサーバーなどのネットワークリソースに「名前(=ドメイン名)」を割り当て、そのドメイン名をIPアドレスに変換する役割を担っています。それに対して、この変換プロセスで参照されるのがDNSレコードです。
; DNSレコードの例 for example.com $TTL 86400 @ IN SOA ns1.example.com. admin.example.com. ( 2024012401 ; シリアル 7200 ; リフレッシュ 7200 ; リトライ 1209600 ; 有効期限 86400 ) ; 最小TTL ; 名前サーバーの設定 @ IN NS ns1.example.com. @ IN NS ns2.example.com. ; Aレコード for example.com @ IN A 192.0.2.1 ; AAAAレコード for IPv6 @ IN AAAA 2001:db8::1 ; MXレコード for メールサーバ @ IN MX 10 mail.example.com. ; CNAMEレコード www IN CNAME example.com. ftp IN CNAME example.com. ; 別のAレコード for サブドメイン subdomain IN A 192.0.2.2 ; TXTレコード for SPFやその他の目的 @ IN TXT "v=spf1 include:example.com ~all"
この記事では、DNSレコードがどのように機能し、どのように設定されるかに焦点を当てます。DNSレコードはWebサイトへのアクセスやメールの送受信など、私たちがインターネットを利用する上で不可欠な役割を果たしています。
ここでは、DNSレコードの種類、それぞれの役割、そして実際にどのように設定するのかを、初心者にもわかりやすく解説します。
DNSレコードの基礎
DNSレコードとは、ドメイン名システム(DNS)において、ドメイン名に関連する情報を保存するためのデータです。これには、Webサイトのアドレス、メールサーバー、その他のサービスへのパスが含まれます。DNSレコードにはさまざまなタイプがあり、それぞれが特定の目的を持っています。
DNSレコードはインターネットの電話帳のようなもので、DNSレコードがなければ、我々はWebサイトの名前を入力してもそのサイトの正確な場所(IPアドレス)を見つけることができません。
DNSレコードの基本構造と記載方法
DNSレコードは、インターネットのドメイン名システム(DNS)内でドメイン名とそれに関連する情報を関連付けるためのデータで、これは特定のフォーマットに従って記載され、DNSサーバーがクエリに応答する際に使用されます。
具体的にイメージがしやすいように、DNSレコードの基本構造と記載方法について詳しく見ていきましょう。
サンプル DNSレコードの例
example.com. 3600 IN A 192.0.2.1
example.com.
はホスト名、3600
はTTL(秒単位)、IN
はクラス、A
はレコードタイプ、192.0.2.1
はこのドメイン名に対応するIPv4アドレスです。
- ホスト名
- レコードが適用されるドメイン名またはサブドメイン名
- TTL(Time To Live)
- レコードがキャッシュ(一時保存)される時間(秒)。
- クラス
- 通常は「IN」で、インターネットを意味する。
- タイプ
- レコードの種類(例:A、MX、CNAME)。
- 値
- レコードタイプに応じたデータ(IPアドレス、他のドメイン名など)。
DNSレコードは、ドメイン名の解決とルーティングに必要な特定の情報を提供します。これにより、DNSサーバーはユーザーのクエリに対して適切な応答を行い、ユーザーはドメイン名を使用して特定のサービスにアクセスできるようになります。
そのうえで、DNSレコードをマスターするうえで重要なのがDNSレコードタイプです。
DNSレコードのタイプ一覧
DNSレコードのタイプは、そのレコードがどのような目的で利用されるのかを表す役割を担います。
例えば、Webサイトのアドレスを指定するためのレコード、メールサービスのルーティングを定義するレコード、サブドメインやセキュリティ設定を管理するレコードなど、各タイプは特定の機能や用途に対応しています。
以下にDNSレコードのタイプを一覧で整理します。
レコードタイプ | 説明 | 用途 |
---|---|---|
A | ドメイン名をIPv4アドレスに関連付ける | WebサイトのIPアドレス指定 |
AAAA | ドメイン名をIPv6アドレスに関連付ける | WebサイトのIPアドレス指定(IPv6) |
MX | メールサーバのアドレスを指定する | メールのルーティング |
CNAME | 1つのドメイン名を別のドメイン名に関連付ける | ドメインのエイリアス作成 |
TXT | 任意のテキスト情報を保存する | SPFやDKIMなどの設定 |
NS | ドメインの名前サーバを指定する | ドメインのDNS管理 |
PTR | IPアドレスをドメイン名に逆変換する | 逆DNSルックアップ |
SRV | 特定のサービスの場所を指定する | サービスの位置情報提供 |
SOA | ゾーンの権威情報を提供する | DNSゾーンの管理 |
ポイント DNSレコードの詳細解説
- Aレコード
- 最も基本的なレコードタイプ。ドメイン名(例:www.example.com)をIPv4形式のIPアドレスにマッピング。Webサイトのアドレス指定に不可欠です。
- AAAAレコード
- Aレコードと同様ですが、IPv6アドレス(新しいIPアドレス形式)に対応しています。
- MXレコード
- ドメインのメール交換サーバのアドレスを指定し、メールの配送先を決定。複数のMXレコードを優先度に基づいて設定できます。
- CNAMEレコード
- 1つのドメイン名(エイリアス)を別のドメイン名にマッピングします。例えば、www.example.comをexample.comにリダイレクトする場合に使用します。
- TXTレコード
- ドメインに関連する任意のテキスト情報を提供。これは、セキュリティ設定(例:SPF、DKIM)やドメインの検証によく使用されます。
- NSレコード
- ドメインのDNSクエリを処理する名前サーバを指定します。DNS設定の基本的な部分です。
- PTRレコード
- IPアドレスから対応するドメイン名への逆引き(逆DNSルックアップ)を可能にします。主にメールサーバの信頼性向上に役立ちます。
- SRVレコード
- 特定のサービスの位置(ポートとホスト名)を示します。例えば、VoIP(Voice over IP)サービスやメッセージングサービスで使用されます。
- SOAレコード
- DNSゾーンの権威情報を含み、ゾーンの管理に関するデータ(例:ゾーンの更新頻度、連絡先情報)を提供します。
これらのレコードは、DNSシステム内で異なる役割を果たし、インターネット上での情報の流れを制御し、整理します。それぞれのレコードタイプを適切に設定することで、ドメインの機能性と信頼性が高まります。
DNSレコードの役割(Webサイトへのアクセスを例に)
ここからはDNSレコードが参照されるプロセスを、具体的なシーンを例にして1個1個順を追いながらご説明していきます。ここでは、ユーザーがブラウザで「www.example.com」というWebサイトにアクセスするシナリオを使用します。
ステップ1: ドメイン名の入力
- ユーザーアクション: ユーザーがブラウザに「www.example.com」と入力。
- 背景: ユーザーはWebサイトのドメイン名を知っていますが、そのサイトの実際のIPアドレスは知りません。
ステップ2: DNSクエリの開始
- システムアクション: ブラウザは入力されたドメイン名を元にDNSクエリを開始します。
- 背景: ドメイン名をサーバーのIPアドレスに変換するため、DNSシステムが必要です。
ステップ3: ローカルDNSサーバーへの問い合わせ
- システムアクション: ユーザーのデバイスはまず設定されているローカルDNSサーバー(多くの場合はISPが提供)に問い合わせます。
- 背景: ローカルDNSサーバーには、以前のクエリによるキャッシュ情報がある場合があります。
ステップ4: DNSレコードの検索
- システムアクション: ローカルDNSサーバーが必要なレコードを持っていない場合、ルートDNSサーバー、TLD(トップレベルドメイン)サーバー、そして最終的に「example.com」の権威DNSサーバーに問い合わせを行います。
- 背景: このプロセスは、ドメイン名に関連する正確な情報(この場合は「www.example.com」のIPアドレス)を見つけるために必要です。
ステップ5: DNSレコードの取得
- システムアクション: 権威DNSサーバーは、該当するドメインのAレコード(またはAAAAレコード)を含む応答をローカルDNSサーバーに返します。
- 背景: Aレコードは、ドメイン名をIPアドレスに関連付けるために使用されます。
ステップ6: Webサイトへのアクセス
- システムアクション: ローカルDNSサーバーは取得したIPアドレスをブラウザに返し、ブラウザはそのIPアドレスに接続してウェブサイトのコンテンツを取得します。
- 背景: ブラウザは、IPアドレスを使用してウェブサーバーと通信し、ウェブページをユーザーに表示します。
このプロセスでは、DNSレコードがWebサイトのアドレス解決に不可欠な役割を果たしていることが分かるかと思います。正確なDNSレコードの設定がなければ、ブラウザは正しいIPアドレスを見つけることができず、Webサイトにアクセスすることができません。DNSレコードの役割や重要性が良くわかるのではないでしょうか。
ゾーンファイルとは?
ゾーンファイルとは、特定のドメインに関連するすべてのDNSレコードを包括的に管理するテキストファイルです。このファイルは、DNSサーバーがドメイン名のクエリに応答する際に使用される情報源となります。
例えば、"example.com"のドメインがある場合、そのドメインに関連するすべてのDNSレコード(WebサイトのIPアドレス、メールサーバーの位置など)は"example.com"のゾーンファイル内に記載されます。DNSサーバーは、このゾーンファイルを基にして、"example.com"に対するすべてのDNSクエリに応答します。
サンプル ゾーンファイルの例
$TTL 86400 @ IN SOA ns.example.com. admin.example.com. ( 2024010101 ; シリアル 7200 ; リフレッシュ 7200 ; リトライ 1209600 ; 有効期限 86400 ) ; 最小TTL @ IN NS ns.example.com. @ IN A 192.0.2.1 www IN CNAME example.com. mail IN A 192.0.2.2 example.com. IN MX 10 mail.example.com.
このファイルでは、"example.com"のメインIPアドレス(192.0.2.1)、"www"サブドメインのCNAMEレコード、メールサーバーのAレコードとMXレコードが設定されています。