FIコンサルを目指す人にとって、避けては通れない道が「財務諸表バージョン」です。かつ、SAP利用者にとっても「なんじゃそりゃ?」と一回は疑問に思うのが「財務諸表バージョン」です。
SAPの財務諸表バージョンとは何か?
どんな設定がされていて、どんなことに影響するのか?
このページでは、①基本的な概念の説明と、②システム開発者・保守者向けにカスタマイズ方法を説明しています。
SAPの一般ユーザの方はこのまま下に読んでいってください。
既に財務諸表バージョンの概念が分かっているシステム運用者の方は、目次からカスタマイズ説明の章に飛んでいただくことをお勧めします。
それでは解説を始めます。
財務諸表バージョンとは
【前提】財務諸表の金額はどうやって集計するか
SAP・FIモジュールのゴールは「財務諸表の出力」です。
財務諸表とは、損益計算書や貸借対照表などのことを指しています。簡単に言うと「どの取引をどれだけ行ったか」「費用・収入などの分類ごとに金額の合計値はいくらか」を国に報告する書類のことです。
では、この財務諸表を出すためにどうやって金額を集計するのか?
答えは、勘定コードです。
勘定コードとは、勘定科目ごとに割り当てられているコード(数字)のことであり、転記をする際には必ずこの勘定コードが必要です。
したがって財務諸表を出力する際には勘定コードの値を集計すればよいだけ、ということになります。
実際の報告様式
上記の説明がなんとなく分かったところで、実際の財務諸表を見てみましょう。

注目すべきは報告すべき金額の分類が結構細かいことです。「資産の部」の中に「流動資産」や「固定資産」があるのが分かりますね。そして流動資産の中には「売掛金」や「商品」など更に細かい分類があることが分かります。
財務諸表バージョンを一言で説明してしまうと、例のような財務諸表の「階層構造を定義するもの」です。
先ほどそれぞれの分類ごとの金額は勘定コード単位で集計されると言いましたが、集計した金額を「どの階層のどの項目で報告するか?」をシステム的に決定しているのが「財務諸表バージョン」なんです。
名前に「バージョン」がつく意味
財務諸表バージョンに「バージョン」がつく理由は単純に「いろんな種類の構造を作れるから」です。基本的には、財務諸表は1種類だけ作っていれば問題ないのですが、例えば日本とアメリカにそれぞれ会社がある企業を考えてみましょう。
この場合、SAPの設定一つで日本向けの財務諸表、アメリカ向けの財務諸表を同時に作る必要が出てきます。
SAPはそういった場合でもSAP1つで対応できるようにしているのです。
日本国内だけの企業でも、複数の財務諸表バージョンを持っておいて必要に応じて使い分けをする可能性もあるため、この設定ができるSAPはやはり優れたERPシステムであると言えるでしょう。
その一方でわかりにくくはなるんですけどね・・・
財務諸表バージョンの概念が分かったところで、財務諸表バージョンの実際の設定方法、各項目のシステム的な意味を解説していきます。
カスタマイズ説明
財務諸表バージョン定義画面
以下の画面が財務諸表バージョンの定義画面です。

定義画面の開き方
① トランザクションコード:SPRO
② 完全版IMG設定
③ 財務会計>総勘定元帳>G/L勘定>■定義:財務諸表バージョン
財務諸表バージョン:コード
財務諸表バージョン自体のコードを設定します。
英数字4文字で定義します。
実際に財務諸表を出力するときに、このコードを指定するため分かりやすいコードにする必要があります。よくあるコード設定方法としては、「会社コード=財務諸表バージョン」で定義することが多いです。
会社コードは、財務諸表の出力単位で設定するため基本両者は一致するという思想です。
そもそも会社コードってどういう設定をするんだっけ?という方はこちらの記事を参考にして下さい。
このコードをレポート出力時に指定することにより、設定された階層構造で財務諸表バージョンが出力されます。異なる階層でレポートを表示したい場合は、その分の財務諸表バージョンを別に定義しておくことで対応することができます。
名称
説明不要ですが、この項目に指定した名前が直接SAP利用者の目に触れるので「技術的な名称」を指定するのはお勧めしません。
会社名_財務諸表
のような分かりやすい名称を設定しておくのが無難です。
言語更新
財務諸表を出力する際の言語を割り当てます。日本語であれば ”JA” を指定します。
もし、英語版の財務諸表を出力する要件があれば、出力する階層構造が同じでも英語版の財務諸表バージョンを別に定義する必要があります。
つまり、同じ階層だが、言語だけ別の財務諸表バージョンをつくる、ということです。
自動割当明細キー
財務諸表バージョンを設定する際に、明細キーを手動で採番するか、自動で採番するかどうかを設定する項目です。
明細キーとは、財務諸表バージョン内の階層・項目を識別するためのキー項目のことで、自動採番にすると1から順に採番されていきます。
マニュアル採番にして、「勘定コード=明細キー」とするやり方が一般的(な気がします)。
勘定コード表
どの勘定コード表を割り当てるかを設定します。
この勘定コード表に含まれる勘定コードのみが、財務諸表バージョン内で利用することができる。つまり、財務諸表バージョン側で階層を設定したとしても、目的の勘定コードが勘定コード表内になければ、その勘定コードの金額は財務諸表に出力されません。
特別な要件がない限り、会社コードに割り当てている勘定コード表=財務諸表バージョンの勘定コード表で設定します。
ここまでが財務諸表バージョンの大枠設定
ここまでで、財務諸表バージョンの「大枠」が出来上がりました。
ここまでの設定はそもそもの設定、つまり財務諸表バージョンの題名と概要を設定しただけです。したがって、このまま財務諸表バージョンを指定して財務諸表を出力しようとしても、何も表示されません。
この大枠が設定された財務諸表バージョンに以下の設定で命を吹き込む必要があります。
財務諸表バージョンの階層設定
トランザクションコード:FSE2
財務諸表バージョンの階層や、階層ごとの財務諸表バージョンを設定する必要があります。
第1画面で先ほど設定した財務諸表バージョンのコードを指定し、実行ボタンを押下した際の画面がこちらです。

この画面は設定がある程度完了している財務諸表バージョンの階層を表示しています。画面を見ると、階層関係が一目でわかるようになっていますね。
そして、さらに階層を辿り最下層にたどり着くと、以下のようにその階層に勘定コードを割り当てていることが分かります。

この例では、階層が「資産 > 現金および現金同等物 > 小口現金」のように設定されていることが分かります。そして、最下層の「小口現金」には勘定コード「10010000」が割り当てられています。
つまり、勘定コード10010000は、財務諸表では資産の部の小口現金の金額として報告されるということになるわけです。
2通りの勘定コードの割り当て方
勘定コードを階層に割り当てる方法には大きく分けて2通りあります。それぞれのメリット・デメリットを解説しておきます。
勘定コードを個別指定する
先ほど例示した財務諸表バージョンはこの例です。
勘定コードの開始値・終了値を同一の勘定コードで設定していきます。勘定コード一つひとつを階層に割り当てていくイメージです。
この場合のメリットとしては「分かりやすい!」ことが挙げられます。
財務諸表バージョンを開いていけば、そこにどんな勘定コードが割り当てられているかを個別に知ることができます。
検索をすれば、ドンピシャで階層を表示することも可能です。
勘定コードを個別指定する
勘定コードを範囲指定、すなわち「00000~00010」までを「小口現金」の階層に割り当てる、といったやり方です。
もう一度画面を見てみると、開始勘定・終了勘定があることからこちらが本来の使い方と言えるでしょう。

開始勘定・終了勘定を別に指定して勘定コードの範囲していという形をとっておけば、勘定コードを追加した際に「財務諸表バージョンへの割り当て作業が不要!」です。
その範囲にある勘定コードであれば、勘定コードを作成したタイミングで自動的に財務諸表バージョンへの割り当てが完了していることになります。
一方で、システムの運用歴が長くなってくると、日々刻々と追加・修正される勘定コードが事前の採番体系の壁を打ち破ることもあります。
このとき非常につらい思いをするのが、この範囲指定のデメリットでもあります。
財務諸表バージョン更新時の注意点
財務諸表バージョンを更新する際には、勘定コードが事前に登録されている必要があります。もし登録されていないタイミングで、財務諸表バージョンに勘定を追加しようとすると「勘定コードXXXXは勘定コード表OOOOに登録されていません」というメッセージが表示され、更新が行えません。
ちなみに、このメッセージが出るのは、開始勘定と終了勘定の間に1つも勘定がない場合です。
すなわち、勘定コードを個別指定する場合に起こりがちです。勘定コードを範囲指定している場合には、1つでも勘定コードが含まれていればよいので発生しづらくなります。
財務諸表バージョンのまとめ
財務諸表バージョンは、財務諸表出力時の階層関係をつかさどっています。財務諸表バージョンを複数設定しておくことで、集計した金額を複数の形式で報告書類として出力することができます。
財務諸表バージョンはあくまでも階層関係をつかさどっているだけなので勘定コードの割り当てが必要になります。
※勘定コードマスタの概念・および登録方法はこちらのページをご覧ください。