VLAN(Virtual Local Area Network)とは、1つの物理的なネットワークを「複数の独立した仮想ネットワークに分ける技術」です。1つのネットワークを複数の仮想ネットワークに分けることで、企業や組織はネットワークの柔軟性とセキュリティを大きく向上させることが可能になります。
現代のネットワーク環境ではさまざまなデバイスやアプリケーションが常に相互に通信していますが、VLANを構築することで、①ネットワーク内の通信デバイスを効率的に管理し、②必要な部分だけを隔離・制御することで、ネットワーク全体のパフォーマンスを最適化することができます。
VLANはネットワーク内のトラフィックを制御し、セキュリティを強化するための鍵となる技術。特に大規模な組織や、セキュリティが重要な環境では、VLANを活用することで、ネットワークの運用をより柔軟にかつ安全に行うことができます。
この記事ではVLANの基本的な概念から、VLANの構築方法、VLANの利点、そして実際の使用例に至るまでを詳しく解説していきます。IT初心者の方でも理解しやすいように、各セクションで重要なポイントを明確に図解しつつ詳細に解説いたします。
VLANとは?わかりやすく
VLAN:Virtual Local Area Network(バーチャル・ローカル・エリア・ネットワーク)は、物理的なネットワークの構造に影響されず、複数の独立したネットワークを仮想的に構築する技術。
異なる場所にあるデバイスを同じネットワークに属させたり、同じ場所にあるデバイスを異なるネットワークに割り当てたりすることができます。
例えば、会社の経理部門と営業部門は物理的には同じフロアにあるかもしれませんが、VLANを使用することで、それぞれが別々のネットワークに属するように設定することができます。
VLANと物理的LANの違い
物理的なLAN(Local Area Network)は、ケーブルやスイッチなどの物理的なハードウェアによって接続されたネットワークです。
一方で、VLANは物理的な接続に依存せず、ソフトウェアを用いてネットワークを仮想的に分割するという点が重要なポイント。つまり、物理的なデバイスの位置や配線の接続に縛られることなく、柔軟なネットワーク設計が可能になるという点を押さえておきましょう。
VLANの動作原理
では、具体的にどのように仮想的なネットワーク(VLAN)が構築され、どのように動作するのか?を見ていきましょう。ここでは簡単なネットワーク構成を例に、1つのネットワークを複数の仮想的なネットワークに分割する方法を順を追ってご説明していきます。
VLANの設定/構築方法
まずVLANはネットワーク内のスイッチに設定されます。スイッチとはOSI参照モデルの第2層:データリンク層で動作するネットワーク機器で、流れてきたデータの宛先MACアドレスを参照し、適切な機器へデータを転送する役割を担います。
参考 スイッチとは? / MACアドレスとは?
したがって、ネットワーク管理者はスイッチ上で複数のVLANを設定していくことになります。具体的には各VLANに独自のID(たとえばVLAN 10、VLAN 20など)を割り当てることで、まずはVLANの箱・枠を作成します。
Ciscoスイッチを用いる場合、以下のようなコマンドを実行することでVLANの枠を設定します。
使用するスイッチ: Ciscoスイッチ(Catalystシリーズなど) 設定するVLAN: VLAN 10(経理部門用)、VLAN 20(営業部門用) ----設定コマンド例---- conf t vlan 10 name Accounting vlan 20 name Sales end
次にスイッチ上の各ポートを特定のVLANに割り当てます。ポートとは実際にデバイスを接続する口のことで、LANケーブルを利用する際にPCに接続する接続口をイメージいただければOKです。
ここで、ポート1~4をVLAN 10に、ポート5~8をVLAN 20に割り当てます。そうすることで、ポート1~4に接続されているネットワーク機器はVLAN 10に接続していることになります。(ポート5~8は、VLAN 20に接続。)
ポート1~4をVLAN 10(経理部門)に、 ポート5~8をVLAN 20(営業部門)に割り当て。 ----設定コマンド例---- conf t interface range fa0/1 - 4 switchport mode access switchport access vlan 10 exit interface range fa0/5 - 8 switchport mode access switchport access vlan 20 end
VLAN設定後の動作/通信制御
上記の設定を行った後で、VLAN内のデータ転送がそれぞれどのように行われるのかを見ていきます。
ポイント VLAN内のデータ転送の原則
- VLAN 10(経理部門用)とVLAN 20(営業部門用)が設定されている。→つまり、スイッチ上の各ポートが特定のVLANに割り当てられ、それぞれ独立したネットワークとして機能している状態。
- このときVLAN 10に割り当てられたポート(例:ポート1~4)に接続されたデバイスは、VLAN 10内でのみ通信が可能になります。つまり、これらのデバイスからのデータはVLAN 10内の他のデバイスにのみ送信され、VLAN 20のデバイスには届きません。
1つのネットワークを、VLANという仮想的なネットワークに分けたことで、異なるVLANに振り分けられた通信機器は相互に通信ができなくなるという点がポイント。
ネットワークが異なる(IPアドレスのネットワーク部が異なる)場合はルーターやL3スイッチを設置しルーティングしないとネットワーク間での通信が行えないのと同じ状態です。
ではなぜVLAN間での直接通信が制限されるのか?ここから、VLANの詳しい動作原理についてご説明します。
VLANID/VLANタグ
VLANに割り当てられたポートから送信されるフレームには、VLAN IDを示すタグ(VLANタグ)が付与されます。このタグは、IEEE 802.1Q標準で定義された世界標準のフォーマットを持ちます。(この章の最後でフレームのサンプルフォーマットを提示します。)
VLANタグにはVLAN IDが含まれており、これによりスイッチはフレームがどのVLANに属するかを識別することができます。
VLAN ID が10であればVLAN 10から送信されたフレームなんだな・・・。VLAN ID が20であればVLAN 20から送信されたフレームなんだな・・・と判断しているということです。
スイッチはVLANタグを用いてフレームを適切なVLAN内のポートにのみ転送します。異なるVLAN IDを持つフレームは、それぞれ異なるVLANに属するため、互いに直接転送されません。 →このプロセスにより、異なるVLANは論理的に分離され、それぞれが独立したネットワークセグメントとして機能する、という仕組みです。
先ほども触れたように異なるVLAN間で相互に通信を行うためには、ルーターまたはレイヤー3スイッチが必要です。これらのデバイスは、異なるVLANからのフレームを受け取り、IPアドレスに基づいて適切なVLANにルーティングします。
参考 ルーティングとは?
VLAN設定により、フレームにVLANタグが付与され、それに基づいてスイッチはVLAN間でのフレームの転送を制御します。これにより、VLANは論理的に分離された独立したネットワークセグメントとして機能。
VLAN間での通信を行うためには、ルーターやレイヤー3スイッチによる経路制御が不可欠です。これらのデバイスはVLAN間でのデータフローを管理し、ネットワークのセキュリティと効率を保つ。
↑を十分に理解しておきましょう。
VLANの利点/メリット
これまでも何度かご説明してきた通り、VLANはネットワークを仮想的に細分化するため、セキュリティを強化する効果があります。また同時に、細分化によるパフォーマンスの向上やコスト削減効果、柔軟なネットワーク設計を可能にするなどのメリットがあります。
結果、大きな企業や組織は、物理的な制約に縛られることなく、効率的かつ安全なネットワーク環境を構築することを目的としてVLANを構築することが一般的になっています。
ポイント VLANのメリット
- セキュリティの強化
- VLANを使用することで、ネットワーク内で異なるグループや部門を論理的に分離することが可能。これにより敏感なデータを扱う部門を他の部門から隔離するなどして、不正アクセスや内部からの脅威を軽減することができる。
- ネットワークのパフォーマンス向上
- VLANはネットワークトラフィックを適切に分割し、ブロードキャストドメインを小さくする。結果→ネットワーク上の不要なトラフィックが減少し、全体的なパフォーマンスが向上する。
- 効率的なトラフィック管理
- VLANにより、ネットワークトラフィックを効率的に制御することができるので、特定のグループ間でのデータフローを最適化できる。
- コスト削減
- 物理的なネットワークの再構築や配線を追加したりすることをせずに、ネットワークの再設計が可能。→将来的な新部門の追加やオフィス拡張などに伴うコストを削減することができる。
- 柔軟なネットワーク設計
- VLANはネットワークの設計に柔軟性をもたらす。物理的な場所に依存せずに、異なる部門やグループを簡単に分離・統合が可能。
- 物理的な制約からの解放
- VLANは物理的な場所に依存しないため、異なる場所にいるユーザーを同じネットワークに簡単に組み込むことができる。これにより、リモートワークや分散したオフィス環境でのネットワーク管理が容易になる。
- 障害の局所化
- VLANはネットワークの問題や障害を局所化し、他のVLANに影響を与えることなく問題を特定し、解決できる。
VLAN実装の課題
VLANの実装は多くの利点をもたらしますが、同時にこれらの課題に対処するためには適切な計画、設計、および継続的な管理が必要になります。
特に大規模なネットワークでは、これらの課題に対する慎重なアプローチが求められます。
以下の課題(よくある躓きポイント)を押さえ、適切なVLAN管理が行えるようにすることが重要です。
- 複雑性の増加
- VLANの設定と管理は、特に大規模なネットワークでは複雑になりがち。異なるVLAN間での適切な通信ルールを設定し、管理するには、専門的な知識と注意深い計画が必要。
- 互換性の問題
- 異なるベンダーの機器間でのVLAN設定の互換性は常に保証されるわけではない。特に、異なるベンダーのスイッチやルーターを組み合わせて使用する場合、互換性の問題が生じる可能性がある。
- セキュリティの課題
- VLANはセキュリティを強化する一方で、適切に設定されていない場合はセキュリティリスクを生じさせる可能性もある。例えば、VLANホッピング攻撃(VLANのセキュリティをバイパスして他のVLANにアクセスする手法)などの考慮が必要。
- スケーラビリティの制限
- VLAN IDは有限(標準的なVLANでは4096までのID)。大規模なネットワークでは、VLANの数が増えるとIDの割り当てが問題となることもある。
- パフォーマンスへの影響
- 不適切なVLAN設計や過度なVLANの使用は、ネットワークのパフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性があります。特に、ルーターを介したVLAN間通信は、追加の遅延を引き起こすことがあるため要注意。
- 管理の負担
- VLANの設定変更、管理、トラブルシューティングは、時間と労力を要する作業。特にネットワークが拡大するにつれて、これらの作業はより複雑になる。
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